神奈川県横須賀市久里浜は1853年、ペリー提督率いる黒船艦隊が上陸した、日本の歴史が大きく動いた場所です。その歴史を胸に、地域活性化の願いを込めて名付けられた「黒船仲通り商店街」。その一角で、長い時を紡いできたお茶屋さんがあります。
神奈川県横須賀市久里浜は1853年、ペリー提督率いる黒船艦隊が上陸した、日本の歴史が大きく動いた場所です。その歴史を胸に、地域活性化の願いを込めて名付けられた「黒船仲通り商店街」。その一角で、長い時を紡いできたお茶屋さんがあります。
「泰平のねむりをさます上喜撰 たった四杯で夜も眠れず」
黒船来航時、泰平の世が一変した混乱ぶりを笑いにした、有名な狂歌です。上等なお茶である「上喜撰」には、カフェインがたっぷり入っています。4杯も飲めば、目がさえて眠れなくなってしまいます。これに黒船の「蒸気船」を引っかけて、4隻でやって来た外国船のために、夜も寝られないほど大騒ぎになった様子を表現しています。
「久里浜といえば黒船。ならば、飲む人の目を覚まさせるほど旨い茶を作ろう」店主・橋本さんは、この狂歌に想いを重ね、看板茶『黒船』を生み出しました。
ティーバッグを湯呑みに入れて、お湯を注ぐ。すると、ふわりと茶葉が開き、爽やかなお茶の香りが立ち上ります。『黒船』は、その名の通りガツンとくる「濃さ」が特徴です。茶葉の質を厳格に見極める検茶を勝ち抜いた、選りすぐりの葉だけを使用しています。この一服が、忘れかけていたお茶の美味しさを思い出させてくれます。
家庭から急須が消えつつある現代。橋本さんは「お茶屋の本当の味を、今の暮らしの中で楽しんでほしい」という想いから、『黒船』をティーバッグで発売しました。極上の緑茶を手軽に楽しめると、自宅用はもちろん、贈答用にも選ばれています。ペットボトルのミネラルウォーターに入れて置くだけで、水出し緑茶も簡単に出来上がります。
京急久里浜駅から徒歩3分、黒船仲通商店街にある「はしもと茶舗」。橋本家は古くから、干鰯問屋に始まり、酒、タバコなどを販売していました。15代目店主の橋本篤一郎さんが、20歳の時に、お茶の専門店として営業を始めました。長い歳月をかけて築き上げたのは、静岡に工場を構え、自ら茶葉を選び抜くという徹底したこだわりです。年に何度も静岡の工場に行き、自らの五感で選別した厳選したお茶を販売しています。
橋本さんは、家業を継いで以来、黒船仲通り商店街の中心的存在として、長く街を支えてきました。先代たちが守り続けてきた店と商店街を「黒船」という久里浜名物のお茶を世に送り出すことは、地域活性化への狙いでもありました。
はしもと茶舗を訪れると、必ずその場で温かいお茶を出してくれます。お茶インストラクターでもある橋本さんが、お茶の旨みと甘みを引き出す適温で丁寧に淹れる一杯。その甘さとまろやかさに、多くの人が驚きます。
お客様はもちろん、子どもたちや日本文化に興味を持つ外国人の方にも日本茶の魅力を伝えるために日本文化を巡るツアーにも協力するなど、お茶文化を伝え続けてきました。店先で焙じ茶を煎り、その香りで人を迎え、言葉を交わす。お茶は、会話のきっかけであり、人と人をつなぐ存在です。
昭和51年に全蓋式アーケードが整備され、「黒船戸板市」などで賑わいを見せてきた黒船仲通り商店街。しかし、近年は高齢化や時代の波に押され、かつての活気が失われつつある現実もありました。
「どうすれば、活気がある通りであり続けられるのか」その問いへの答えとして、橋本さんは常に新しいアイデアを形にし続けています。 通りを舞台にしたコンサートや、さまざまなイベントを自ら企画。 商店街に音楽を響かせ、人が集まる「きっかけ」を次々と生み出しています。また、店先に飾られる季節の雛人形や五月人形、そして何年も大切に育てられ、長く生き続けるお祭りの金魚たち。それらを指差して喜ぶ子どもたちの笑顔は、この店が地域の人々にとっての温かな「居場所」であることを思い出させてくれます。
帰ってきた笑顔、そして未来へ
そんな街の顔である橋本さんを、予期せぬ困難が襲いました。一時期、闘病により入院生活を送ることになったのです。 橋本さんが不在の間、誰もがその存在の大きさを痛感していました。だからこそ、彼が地元久里浜に戻ってきたとき、商店街にはパッと笑顔の花が咲きました。 橋本さんの帰還は、街のともしびが再び灯った瞬間でもありました。
150年以上前の開国という激動の物語から始まり、商店街の黄金期を経て、今の時代へ―。 『黒船』には、久里浜の歴史を誇りに思う心と、これからの街を支える次世代への慈しみが詰まっています。立ちのぼる香りの向こう側には、今日も変わらず、人々の営みを優しく見守る老舗の姿があります。
取材日 2025/12/10
※掲載されている商品・情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
Information

はしもと茶舗
住所 神奈川県横須賀市久里浜4-7-9
電話番号 046-835-1705
営業時間 9:00~18:00
定休日 水曜日
アクセス 京急久里浜駅西口より徒歩約3分
URL https://hashimoto.chashinan.com

Writerうみのとなり
ライター歴5年 「横須賀っていいな」「行きたいな、住みたいな」と思ってもらえる情報を発信しています。 地元の美しい自然・歴史・地域のあたたかさと魅力を伝えたい!Yahoo!ニュースライター 500件以上取材実績あり。地域クリエイター月間MVA2024年11月、7月、2023年7月連続受賞。

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