旬の三浦野菜を美味しくいただく。
40年以上テレビの料理番組に従事し、料理と食材に携わった筆者の視点を通して、三浦野菜の素材と背景を知り、美味しくいただくレシピをお届けする連載です。
旬の三浦野菜を美味しくいただく。
40年以上テレビの料理番組に従事し、料理と食材に携わった筆者の視点を通して、三浦野菜の素材と背景を知り、美味しくいただくレシピをお届けする連載です。
「おじいさんのその前までは、この地で農家やってたのは確かだけど、その前は知らんな!」とおっしゃる「やまきちファーム」の鈴木清光さんは、畑の先に雄大な海を望む毘沙門エリアに10か所の畑を構え、今の時期は、青首大根、キャベツ、にんじん、カリフラワーとブロッコリーなど、何と年間で50種類以上の野菜を育てていらっしゃいます。
畑は高台で驚くほど海に近く、端の崖の下がそのまま海という地形で、雄大な海が右にも左にも見渡せます。本当なら砂地でもおかしくないような土地ですが、ふかふかの土に少ししんなりした葉がびっしりと並んでいます。
近づいてよく葉の下を見ると、少し頭を出した青い大根の首が見えました。
「三浦では手作業で1本ずつ抜くので、収穫しやすいようにびっしり隙間を空けずに種を蒔くんです」と農協の方から教わっていたのですが、確かに畝がない畑の風景はあまり見たことがありません。それに思ったより大根が小さいような気がします。
鈴木さんに伺うと、種を蒔くときに間隔が広ければ大根は太く大きくなるけれど、18cm〜20cmくらいに詰めて蒔くと小さく育つそうで、種を蒔く間隔で大根の大きさを調整するのだそうです。
100種類を超えるたくさんの品種の中から、どうやって品種を選ぶのか?
「種を蒔く時期と間隔(=育てたい大きさ)を考えながら、周りの評判や前の年の実績なんかで決めるんだけど、はずれる時もあるよ!」と鈴木さんは話されますが、昨今の劇的に変わる気候に合わせるのは並大抵のことではありません。
さらに、最近の核家族に合わせて、また、持ち運びしやすい大きさの要望にも答えているのです。
華奢な人では立っていられないほどの強風が吹いていますが、すでに、畑では鈴木家の女性陣、奥さんの香織さんと鈴木さんの80歳を超えるお母様の敬子さんが手際よく大根を端から抜き、ネコという1輪車に綺麗に大根の頭を揃えて並べています。
35本ほどでしょうか、2段から3段に積むと鈴木さんがやってきて、ものすごく切れる包丁で葉を短く残して切りそろえていきます。なるほど、まとめてきれいにすっぱり切れるように、大根の首をきちんと揃えて葉をネコの外側に出して並べていたわけなんですね。
3人の作業には無駄がなく、流れるようにすすみます。葉を切った大根は鈴木さんが押して畑のきわの農道に停めた軽トラに運び(やってみたかったけれど、でこぼこふかふかの土の上では一発で一輪車をひっくり返す自信アリで断念)、1本ずつ、それはていねいに軽トラに積み直していきます。途中で崩れないように、大根に傷がつかないように、何段か積んだら平らになるように大根の向きを横に変えます。その日の畑の様子や出荷に合わせて多いときには前後に取り付けられた板の高さいっぱいまで積むこともあるそうです。
畑はふつう同じ野菜を同じ畑で作り続けると必要な養分が足りなくなって連作障害が出るのですが、三浦の畑はミネラルが豊富なためか潮風でミネラルが運ばれてくるのか、連作障害がおこらないのが昔からの不思議のひとつなんだそうです。今期は雨がほとんど降らなくて乾燥していますが、畑の土はしっとりしています。
雨が降らなければ軽トラに水のタンクを積んで1日5000ℓくらい畑に撒いたり、
ちょっと暖かい日が続くと、思ったより大きくなっていて焦ることもあるそうで、「自然任せなのでなかなか計画通りにはいかないよ」とベテランの鈴木さんは淡々と話します。
鈴木さんの大根は3年前から三浦朝市で直売もするようになり、人気をはくしています。朝市は早朝5時からですが、4時に直売所に運び込むと、すでに人が並んでいることもあるそう。「ほとんど徹夜で作業して出すんだけど、お客さんから直接、この間美味しかったからまた来た〜!などと言われると、嬉しくて儲けもたいしてないのに、ついつい続けてしまう」と奥さんの香織さんが話してくださいました。
畑で印象的だったのが、とにかく野菜の扱いがていねいなことです。腰をかがめて1本ずつ手で抜いて、その後も終始、まるで子どもを扱う様な優しさです。
何だか半分作業が終わった様な気になって軽トラとともに自宅に向かいましたが、持ち帰った大根は、出荷までに、まだまだ、根気のいる作業が続きます。
取材日:2024年2月26日
撮影:角田洋一

Writer戸叶 光子
幼い頃から食べるのが大好きで、卵かけごはんは「黄身を崩さず自分でさっと混ぜながら食べたい」(当時は母親がよくかき混ぜて子ども達のごはんにかけてくれるのが普通だった)、「いちごは絶対潰さないで」(その頃のいちごは酸っぱくて、砂糖と牛乳をかけて潰して食べるのが定番だった)などなど、食べ方に変なこだわりをもつ子供だった。 大学卒業後は料理編集者の仕事に就き、その後、料理番組の制作にも40年ほど携わって食こそ人生の日々を過ごしてきた。キャンプ、バレエ、猫を愛し、料理、食材の取材はライフワークにしたいほど好き!

RECOMMEND
RANKING