運慶作の仏像五体を護る古刹、浄楽寺。かつて三浦一族の武将・和田義盛がこの地を治め、明治期には「郵便制度の父」前島密翁が晩年を過ごしたこの聖域に、2025年11月、宿坊「TEMPLE STAY KAN ~観~」がグランドオープンしました。
運慶作の仏像五体を護る古刹、浄楽寺。かつて三浦一族の武将・和田義盛がこの地を治め、明治期には「郵便制度の父」前島密翁が晩年を過ごしたこの聖域に、2025年11月、宿坊「TEMPLE STAY KAN ~観~」がグランドオープンしました。
築120年の古民家を丁寧に改修して生まれた宿坊「TEMPLE STAY KAN ~観~」。余計な装飾を削ぎ落とした空間に漂うのは、豪華さや便利さを競う宿にはない「静けさと陰影」です。
かつて張られていた天井板を全て取り払い、屋根裏まで突き抜ける大空間が誕生。煤や経年変化で黒く光る太い梁や大黒柱が、圧倒的な存在感で交差しています。120年間この家を支え続けてきた力強い木組みの下で食事をする。それは、長い時の流れに包まれるような、得難い安心感を与えてくれます。
ダイニングと和室を隔てるのは、障子や襖のみ。建具を開け放てば風が通り抜け、ひと続きの大空間となります。備え付けのキッチンで地元の恵みを調理する「自炊の自由」があり、朝市で選んだ野菜や漁港直送の魚を、120年の時を刻む梁の下でシンプルに味わえます。
客室は4畳半、6畳、7畳半の和室で、最大8名まで宿泊可能。さらりとした畳に腰を下ろせば、テレビの喧騒も通知音もありません。デジタルな世界から距離を置くことで、心の奥底に沈んでいた思考や感情が、静かに、ゆっくりと表面へ浮かび上がってきます。
「観」という名前には、心を広く保つという意味とともに、外からの評価や情報に振り回されず、自分の心と向き合う時間を持ってほしいという願いが込められています。
円卓を囲む和室からは、大きな窓越しに庭園を一望。室内と外の自然が一体となるような、心地よい開放感に包まれます。この庭は、浄楽寺の土川副住職と庭師が「眺めるための装飾」ではなく、心の動きを映し出すための設計として考えました。
広がる庭は、仏教の教え「二河白道(にがびゃくどう)」をかたちにしています。仏教では、苦しみの根源を、怒りを表す「火」と執着を表す「水」として描きます。その火と水のあいだに、一本の細く白い道が通っており、その道を渡りきった先には、安らぎの世界、極楽浄土があると説かれています。
庭には、その白道に見立てた大谷石と白河石の橋が静かに架けられています。何かを解決しなくてもいい。答えを出さなくてもいい。ただ、心が少し軽くなっていく。この庭は、心の内側の変化を見守ってくれる存在です。
宿坊のキッチンで行われる「三浦水軍寿司握り体験」は、食を通して歴史に触れる特別な体験です。
浄楽寺を創建した和田義盛は、海で遭難し飢えに苦しんだ際、天から流れ着いた筌によって魚を得たと伝えられています。保存技術のない時代、武士たちは獲れた魚をその場で捌き、生で食していました。この体験では、鎌倉時代と同じ食文化を再現します。
使用するのは、佐島漁港などでその日の朝に水揚げされた相模湾の地魚。スズキやヒラメなど、季節の魚を自らの手で寿司に仕立てます。指導は葉山で料理教室を開く「クックバル葉山」の岩渕史武シェフが担当します。
醤油が生まれる以前に使われていた発酵調味料「ひしお(醤)」。本体験では、鎌倉時代後期(1324年)に鎌倉に住んでいた尼僧・ゑかいが記した書状をもとに再現された「ゑかいひしを」を用います。三浦半島に自生するヌルデの葉に付着した天然酵母で、麦と大豆を発酵させて造るのが特徴。味噌と醤油の中間のような深い旨味が、白身魚の繊細な味わいを引き立てます。歴史を知識として学ぶのではなく、味覚を通して身体で受け取る時間は、宿坊での内観と自然につながっていきます。
「三浦水軍寿司握り体験型ディナー」プラン
宿泊料金:23,750円~(人数・時期により変動)※0~3歳無料
体験料金:大人 11,000円、小学生以下 5,500円
定員:2名~8名
このプロジェクトを進めてきたのが、浄楽寺の土川憲弥副住職です。「歴史を見れば、政治は変わり、城は燃え、産業も移り変わってきました。それでも、同じ場所に残り続けてきたのが神社仏閣です」運慶仏が800年もの間この地に残ってきたのも、名もなき地域の人々が守り続けてきたから。その重みを引き受ける立場として、現代におけるお寺の役割を問い続けてきました。
「お寺は本来、地域の人が集い、文化や価値観を共有する場でした」
三浦半島西海岸は、自然や景観に恵まれている一方で、宿泊施設が少なく、日帰りで通過されてしまうことが多い地域です。そこで打ち出したのが、「地域丸ごとホテル(分散型ホテル)」という考え方。お寺をロビーのような存在に見立て、宿坊に泊まり、地域の食を味わい、仏像を拝観し、自然や人と関わる。点在していた体験を、お寺という場所がつなぎます。
忙しさや情報に追われる現代人にとって、本当に必要なのは「立ち止まる時間」ではないか。そう考えた末に行き着いたのが、滞在する宿坊というかたちでした。宿泊者には、無料・有料のさまざまな体験型プランを用意。一棟貸し23,750円〜/人・泊(予約サイトにより異なる)から。日常に戻る前に、自分自身と向き合う時間を、ここで過ごしてみませんか。
取材日 2025/11/28
※掲載されている商品・情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
Information

TEMPLE STAY KAN ~観~
住所 神奈川県横須賀市芦名2-30-5(浄楽寺内)
電話番号 046-856-8622
アクセス 京急バス「浄楽寺」バス停下車 徒歩1分
URL https://templestay-kan.com

Writerうみのとなり
ライター歴5年 「横須賀っていいな」「行きたいな、住みたいな」と思ってもらえる情報を発信しています。 地元の美しい自然・歴史・地域のあたたかさと魅力を伝えたい!Yahoo!ニュースライター 500件以上取材実績あり。地域クリエイター月間MVA2024年11月、7月、2023年7月連続受賞。

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