秋の風が三浦半島を渡り始めた9月下旬、畑一面には、青々とした大根の葉が広がっています。冬の食卓を賑わす、あの立派な大根が大きく育つまでの間に、農家さんは気を抜けない、大切な仕事があるのをご存知ですか?それが、密かに旬を迎える「おろぬき大根」の収穫です。
秋の風が三浦半島を渡り始めた9月下旬、畑一面には、青々とした大根の葉が広がっています。冬の食卓を賑わす、あの立派な大根が大きく育つまでの間に、農家さんは気を抜けない、大切な仕事があるのをご存知ですか?それが、密かに旬を迎える「おろぬき大根」の収穫です。
大根の種をまいてから約1か月。
土から芽が顔を出し、葉がすくすく育ち始めた頃に行われるのが「おろぬき」作業です。
成長途中の大根を間引いて、残した株に十分な栄養とスペースを与える大切な工程です。
加藤農園では、1か所に2粒ずつ種をまきます。発芽率を高め、土を押し上げて芽を出しやすくするためです。そのうち、より元気な株を残し、もう一方を抜き取ります。
農家によっては3粒まくところもあれば、逆に最初から1粒だけにして作業を減らすところもあり、やり方はさまざまです。
畑一面の作業を終えると、トラック一台分にもなるほどの大量にのぼります。
にもかかわらず、市場に出回らない理由は、おろぬき大根が「販売を目的に作られていない副産物」だから。
本来の目的は、大きく育てる大根(本大根)の生育環境を整える「間引き」作業です。副産物であるおろぬき大根は、一般的な流通ルートで販売することが難しいのです。
多くの農家さんは、この美味しい副産物を自宅で食べるほか、知り合いにあげたり、直売所で販売します。それでも、残ってしまった場合はやむを得ず廃棄になります。
おろぬき大根は、地元の人にとっては短い期間だけ楽しめる「季節の小さな楽しみ」です。
茹でて醤油や胡麻油をかけた一品は、素朴ながらも、畑の恵みをそのまま感じられる味わいです。
「最初の一口は“うまい!”と感じるけれど、ちょっと苦いかも」という声もあれば、「その苦味がクセになる」という声も。
浅漬けや味噌汁はもちろん、炒めもの、チーズたっぷりのグラタンも抜群の美味しさです。
私のお気に入りは、ベーコンとニンニクを炒めること。
シャキシャキとした若々しい大根に、ベーコンの旨味と塩気、そしてガツンと効いたニンニクの香りが絡み合います。ビールや日本酒のおつまみとしても、ご飯のおかずとしても大活躍間違いなしの、素朴ながらも滋味深い炒め物です。
「おろぬきが始まると、“ああ、夏が終わったな、秋が来たな”って思います。農家にとっては季節を教えてくれる作業です」
そう話すのは、三浦市初声で「加藤農園」を営む加藤正人さん。
畑で抜かれる小さな大根たちは、市場に並ぶことはほとんどありません。
しかし、農家にとっては欠かすことのできない存在であり、季節を告げる合図でもあるのです。
おろぬき作業は立ちっぱなしではなく、乗用の小型作業車に座って行います。畑の溝幅に合わせて調整できる台車に座り、後ろへ下がりながら3列分の葉を抜いていくという方法。単純そうに見えて、実は根気のいる重労働です。
苦労は鮮度にもあります。おろぬき大根は収穫後すぐにしおれてしまい、2時間もすれば“くたっ”としてしまうほど。翌日には黄色く変わってしまうこともあります。だからこそ、その瞬間に味わう新鮮さは格別です。
「おろぬき」の作業が終わると、いよいよ畑は本格的な成長期を迎えます。間引かれたことで十分な栄養とスペースを得た大根たちは、ぐんぐんと力強く太っていきます。
種を植えてからおよそ3カ月。
秋風が心地よくなる頃には、立派に育った大根として出荷の時を迎えます。煮物に、おでんに、サラダにと、食卓を豊かに彩る冬の主役です。
三浦の秋の知らせ役を務めるおろぬき大根。
小さな存在に込められた農家の努力と季節の物語を、次に大根を手に取ったときに、少し思い出してみてはいかがでしょうか。
(※野菜の直接の個人販売は行っておりません。「ヨークマート久里浜店」もしくは「野菜の里 須軽谷」にてお買い求め下さい)
取材日 2025/9/22
※掲載されている商品・情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
Writerうみのとなり
ライター歴5年 「横須賀っていいな」「行きたいな、住みたいな」と思ってもらえる情報を発信しています。 地元の美しい自然・歴史・地域のあたたかさと魅力を伝えたい!Yahoo!ニュースライター 500件以上取材実績あり。地域クリエイター月間MVA2024年11月、7月、2023年7月連続受賞。
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