「うちはカレー屋なのかな……」。
取材はオーナーの三橋孝一さんの自問からはじまりました。
ランチはミールスと呼ばれる、南インドの定食スタイル。小鉢をひと口いただくと、カルダモンやシナモンの芳香さ、タマリンドの酸味が口の中に力強く広がりました。
「『あの音』はカレー屋として紹介されることが多いんですけど……」。
“カレー”とはタミル語のカリ(辛い汁)が語源です。
15〜17世紀の大航海時代、インド植民地化政策に伴い、スパイスが西洋社会に伝わりました。19世紀初頭、スパイスと小麦粉による「カレーパウダー」を使った煮込み料理がイギリスに広まり、やがて明治の日本に「カレーパウダー」と西洋風煮込み料理が伝わります。これが現在、日本で知られるカレーライスとして定着しました。
「自分としては歴史に翻弄されたカレーライスではなく、原点である南インド料理を提供しているつもりなんです。『あの音』をあえてカテゴライズするなら南インド料理インスピレーションの店、ですかね」。