【連載】三浦大根命名100周年デザインプロジェクト②三浦大根のルーツを辿る旅 後編

Release2025.12.02

Update2025.12.02

【連載】三浦大根命名100周年デザインプロジェクト②三浦大根のルーツを辿る旅 後編

Release2025.12.02

Update2025.12.02

地元良品JOURNEY三浦半島篇と、鎌倉のテキスタイル研究所Casa de pañoのコラボ企画「三浦野菜デザインプロジェクト」の新シリーズは、今年命名100周年を迎える「三浦大根」です。デザインプロジェクトでは、三浦大根を今日に繋ぐ人々との対話を通して、ファッションデザイナーの髙島一精さんと唯一無二の「三浦大根BAG」の製作を目指します。今回は、三浦大根のルーツを辿る旅、後編。現在の三浦大根になるまでには、農会や作り手たちによる、弛まぬ品種改良と挑戦の日々がありました。

農家が育んだ多様な個性の「三浦大根」

明治35年(1902年)、三浦在来の「高円坊ダイコン」と、市場で評価の高かった「練馬系ダイコン」との交雑によって誕生した三浦大根。

その後も、より良い形状や病害への対策のため、さまざまな系統の大根との交配による改良が続きました。そして公的な試験場や農会による品種改良だけでなく、各農家が自らの手で種を選抜し、改良を加える時代が昭和40年代前半まで続いていました。

「三浦大根」とひとくくりに呼ばれていますが、実は農家ごとに独自の種で育てた、多種多様な三浦大根が存在していたのです。そこで、髙梨農場の髙梨雅人さんに、当時の様子を伺いました。

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(撮影:角田洋一)

「昔は品種という品種がなく、『うちで作っている大根』という感覚でした。北部の寒いエリアと、南部の温かいエリアでは、微妙に味が異なっていたんですよ。自分で種を取っているからこそ、それぞれに個性が生まれていました。」

なぜ、これほど地域ごとの多様性が生まれたのでしょうか。

三浦市には、高円坊、松輪、毘沙門、三崎、小網代、金田など様々な地域があります。北部は「三浦のシベリア」と呼ばれ、南部と約1~2度の気温差が生じる日も多くあります。また、海沿いと内陸部で風の強さや土質も異なります。そのため、自分の土地に最も適した種を選び、栽培時期や方法を試行錯誤しながら育ててきたのです。

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(撮影:角田洋一)

種を自家採種から仕入れる形に変わった現在も、「自分の土地に適した栽培方法や品種を探求する姿勢」は、変わることなく三浦の生産者に根づいています。

個性の時代から、統一の時代へ

昭和40年代に入ると、市場競争が激しくなるにつれ、大根にも「品質の高さ」と「形の統一」が強く求められるようになりました。そこで、数ある在来種の中から、優れた特徴を持つ4つの系統が選抜されます。これらを親として掛け合わせ、三浦市農協が改良を重ねて生まれたのが、のちの三浦大根の主流となる品種「中葉」です。

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この時選ばれた4系統は、現在も農業技術センター三浦半島地区事務所で大切に保管されています。その4つとは、試験場の「三浦分場系」、南下浦町菊名の「石井寛系」、南下浦町松輪の「鈴木市治系」、そして横須賀市の「角井敬三系」です。

これらの名前や地名を見ていると、「かつてはもっと多くの集落に、独自の系統が存在し、自慢の大根があったのかもしれない」。そんな想像が膨らみます。

種採りから始まる、農協オリジナル品種「中葉3号」

現在、三浦市農協より出荷されている三浦大根は、農協オリジナル品種である「中葉(ちゅうば)3号」です。 そこで、この品種の開発に携わった、三浦市農協営農部の鵜飼弘明さんに、開発秘話を伺いました。

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(左:室田さん、右:鵜飼さん)

「もともと『中葉』は、収穫の際に土から抜きやすいのが特徴でした。しかし、生産者の皆さんから『もっと首を強くしてほしい』という声が上がり、改良を重ねて生まれたのが現在の『中葉3号』です。三浦大根を出荷し続けるために、農協自らが種採りから行っています。三浦専用で、生産量も限定的な品種のため、大手種苗メーカーが生産することは難しいので。」

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その言葉の端々から、「三浦大根を絶対に途絶えさせない」という、鵜飼さんの強い覚悟と情熱が伝わってきました。

5月下旬。私たちは、その貴重な種を育てているビニールハウスを案内していただきました。

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現在、国内で流通する野菜の種の多くが海外生産に頼る中、「中葉3号」の種は、三浦で育てられています。そして、その採取作業は、想像以上に手がかかります。稲を刈るのと同じように鎌で手作業で刈り取り、脱穀機にかけ、唐箕で選別し、干して、乾かす。

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こうして大切に守られた種は、9月上旬、ついに各農家さんの手元へと届けられます。次回は、「中葉」の三浦大根を育てる「ヤマサ園」さんの、種まきの様子をお届けします。

参考文献:
1.『かながわゆかりの野菜』神奈川県園芸種苗対策協議会
2.『かながわの地方野菜』 神奈川県園芸種苗対策協議会

取材日 2025/5/15~

Writerいとうまいこ

大学卒業後、大手家電メーカーで商品企画や展示に関わる。そのときの経験からテキスタイル(布)に関わる仕事をしたいと考え、2023年にテキスタイルのギャラリー「Casa de paño」を鎌倉で開業。展覧会やワークショップの企画に加え、三浦半島の豊かな自然や生き物、暮らしをモチーフにした布製品の商品企画を行っている。本企画は、三浦半島で暮らす人・営む人へのインタビューをもとに、もようのデザインを通して地域の魅力を再発見し共有する試みです。

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