「パンのきたがわ」には顔なじみのお客さまが次々と訪れては、おしゃべりを楽しみながら店主・北川絹江さんお手製のパンを購入していきます。
「ここはね、三崎口の“サロン”なのよ」と笑う北川絹枝さん。彼女は今日も、焼きたてパンの香ばしい香りを纏いながら笑顔でゲストたちを迎え入れています。
「ブリオッシュ」(60円・税込)のまるっとしたツヤツヤ表面を割ると、ふわふわの生地が現れます。バター、卵、砂糖の量を多めに配合しているので、食パンよりもやわらかな甘みが感じられました。
「小さな子どもからご年配の方まで、食欲がないときでも食べられるシンプルな味わいよ。あまり材料を凝りすぎると、こちらも作り続けられないからね」
ブリオッシュは普段ドライフルーツを入れたもの(2個入り190円・税込)を販売していて、プレーンのものは取材のために特別につくっていただきました。なぜなら北川さんにとって思い入れの深いパンだからです。
北川さんの食べやすく、シンプルながら優しい味わいのパンはご年配の方にも人気です。
以前、北川さんが自宅で通信販売用のパンを焼きながら、老人ホームやご近所の個人宅にブリオッシュなどのパンを届けていました。そして北川さんお手製のパンは“最期の”食事となることもあったそうです。
北川さんの夫の母、お義母さんが胃がんを患った際も、最期まで北川さんのパンを食べていたそうです。
「お義母さんが闘病中に大好きなお米を食べられなくなって、良かれと思って好物のものばかりを食卓に出していたら『いい加減にしてくれ』って言われちゃって。でも何か少しでも食べてもらいたいじゃない」
そのときお義母さんから「食べたい」と言われたのが、北川さんのパンでした。パンはちぎって食べれば口の中で溶けて、弱った胃に負担をかけずに食べられます。
「市販のパンはだめでも、私のパンは最期まで食べてくれたの。当たり前だけど、なんでもいいわけじゃないのね」
厨房にオーブンの音が響き、北川さんが駆け寄ります。中を覗くと、大きなパンがふっくらと焼きあがっていました。
「お店にくるお客さんが『食べたかったのよ』って言っててくれるの。新しいことはできないけれども、『あのパンを食べたいな』って思い出してもらえるような味にしてきたいですね」
取材日 2025/3/27
※掲載されている商品、価格、情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
Information
パンのきたがわ
住所 神奈川県三浦市三崎町諸磯1133
電話番号 080-3454-2757
営業時間 9:30〜16:00(火・木・金・土)
定休日 月・水・日曜
アクセス 京浜急行バス「天神町」徒歩7分
URL https://pannokitagawa.web.fc2.com/
Writer小林有希
東京在住フリーライター/Web編集。2016年にアパレル企画兼バイヤーを辞めて、ライターに。 紙、WEB問わず企業PR、ファッション、アート、地域、建築、教育、働き方など多分野で執筆中。
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