1年を通じて多彩な野菜が育つ三浦の大地。自然の恵みが私たちの口に入り、命の糧となるまでにはどんな人々の思いがあるのか。
40年以上テレビの料理番組に従事し、料理と食材に携わった筆者を通して三浦野菜とその食を見つめます。今回は三浦に春の訪れを告げる柔らかくて甘い本物の春キャベツです。
1年を通じて多彩な野菜が育つ三浦の大地。自然の恵みが私たちの口に入り、命の糧となるまでにはどんな人々の思いがあるのか。
40年以上テレビの料理番組に従事し、料理と食材に携わった筆者を通して三浦野菜とその食を見つめます。今回は三浦に春の訪れを告げる柔らかくて甘い本物の春キャベツです。
春キャベツは一般的に、巻きがゆるくてふわふわ、と言われていて、料理法も適した料理も冬のキャベツとは区別されます。長年やってきた料理の仕事でも、3月になると「春キャベツの〜」と名前がつくキャベツ料理が何度も登場し、春野菜の代表として扱われてきました。
しかし、春キャベツの説明として書くような、ふわふわで生で食べたくなるようなキャベツには、実はあまりお目にかかったことがなく、確かに外側の葉はグリーンでゆるく、切ってみると巻きのしっかりした冬のキャベツとは固さが違いますが、ゆるくてふわふわ、とまでは言えないな〜と思うことがほとんどでした。
ところが、今年、「本春キャベツ」と表示されたキャベツを近所の野菜売り場の店頭で見かけるようになり、青々として軽くふんわりとした、これまで出ていた春キャベツとはまるで別もののキャベツを発見したのです。たしか、最初に見たものは神奈川産とありました。早速買って、4つ割りにしてスープ煮にしましたが、あっという間に柔らかく煮えて、2人で1玉をぺろりと食べてしまい、「あ〜、春が来たな〜」、と実感した夕食になりました。
ちょうどそんな折に、三浦半島で「本春キャベツ」の農家を取材させていただく、という連絡が来て、4月の中旬に、うきうきと三崎口にむかいました。
訪ねたのは大規模農家「森勘農園」森晴夫さんの畑です。森さんは分散していますが畑は全部で10丁近く(ちなみに1丁は約3、000坪)所有して、海外からの働き手も受け入れ、自社の25tトラックで、毎日、東京の市場に産地直送の野菜を運んでもいらっしゃいます。
今回訪ねた4月中旬の畑では、なんと1日に1,000箱も収穫するとのこと。1箱に決まった最適なサイズのキャベツを8玉入れます。朝5時から、8〜12人での膨大な作業が続いていました。
春キャベツはだいたい2〜3回に分けて1つの畑から収穫されます。
1回目は「拾い採り」と言われる方法で、大きさと巻きの状態を一つずつ手で確かめながら切り取って、畑で8玉ずつ箱に収め、その箱を積み上げていきます。
2回目、3回目は畑のほとんどが大きく育っているので、量的にもたくさん箱詰めするそうです。
ちなみに最初に見せていただいた畑は3回目の収穫。次に見せていただいた畑は1回目の拾い採り。見ているだけで腰が痛くなりそうな大変な作業で、私なぞは1日たりともできないな〜、というのが第一印象です。
三浦の春キャベツは金系201という品種で、実は誕生から今年で60年になります。(※注釈:2025年4月取材)春キャベツはその前からあったけれど、この品種はレタスのように生食できる柔らかさが特徴です。
葉が大きくなると蒸れてしまいがちなところ、三浦の地では最初から綺麗な形に生育したそうで、三浦の地では海からの風のおかげで湿気が飛ぶのかもしれない、とは、JA三浦市の方から伺った話です。
まさに三浦の地にドンピシャで合った品種だったと言えます。現在でも、まとまった産地としては三浦市しかなく、本当の春キャベツとして、市場では「本春キャベツ」と称されていましたが、どうやら今年あたりから、店頭でもこの名称がお目見えしてきたようです。
三浦の「本春キャベツ」は暖かい松輪、諸磯から最初に出るそうで、出荷時期の目安は3月中旬から5月の連休あたりまで。この時期より前は早春キャベツ、この時期を過ぎると、同じキャベツでも春キャベツの名称になり、その後は中早生キャベツと品種が変わっていきます。
森さんによると、3月に出す本春キャベツは難しいそうで、11月に苗を畑に植える(定植)ので、寒さで大きくならずに小さいまま割れてしまいがち。12月10日頃に定植するのが理想的だけれど、その年によって気温が違うので、「昔から三浦では漁師に海の様子を聞いて暑さ寒さ対策をしてきたんだよ〜」と。まさに漁業と農業が共存する三浦ならではのお話しです。
また、他の農家の奥様からは、4月10日〜20日の間の本春キャベツがもっとも美味しいと聞きました。
実際、取材に伺った4月18日から、わずか4日後に撮影用に送っていただいた本春キャベツは、最初よりずっと重くなっていて、固さも少し増していて、その変化に驚きました。
もちろん、火を入れて食べれば、ものすごく甘くて柔らかいのですが、レタスのようなふわふわの時期はごく短いのだな〜と実感しました。
たしか畑では、森さんが「生で食べるなら、本春キャベツは重いものより軽いものを選んだ方が柔らかいんだよ」、とおっしゃっていました。
農家の方が口を揃えておっしゃるのは、まず最初は生で食べて欲しい、ということです。
「せん切りにしたり手でちぎってドレッシングや塩とごま油であえると、一度に1玉、ぺろりと食べてしまうよ!」と。
生で食べる時におすすめの、目から鱗の切り方も教わりましたので、そちらは料理編の最初にご紹介したいと思います。
短い時期を逃さずに、ぜひ、本当の春キャベツ、「本春キャベツ」を食べていただきたいので、次回は、キャベツ農家やJAなど、本春キャベツに惚れ込んだ地元三浦の方々に伺った食べ方を元にして、本春キャベツの美味しい食べ方をご紹介したいと思います。
取材日:2025年4月18日
※掲載されている情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。

Writer戸叶 光子
幼い頃から食べるのが大好きで、卵かけごはんは「黄身を崩さず自分でさっと混ぜながら食べたい」(当時は母親がよくかき混ぜて子ども達のごはんにかけてくれるのが普通だった)、「いちごは絶対潰さないで」(その頃のいちごは酸っぱくて、砂糖と牛乳をかけて潰して食べるのが定番だった)などなど、食べ方に変なこだわりをもつ子供だった。 大学卒業後は料理編集者の仕事に就き、その後、料理番組の制作にも40年ほど携わって食こそ人生の日々を過ごしてきた。キャンプ、バレエ、猫を愛し、料理、食材の取材はライフワークにしたいほど好き!

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