横須賀市平作の高台にある、自然に囲まれた静かなアトリエ。小道を上がった先にある白い箱型の建物の中では、虫や鳥たちの歌を聴きながら、「M.シダータ」の革職人・三堀唯史さん(愛称、以下シダータさん)がオリジナルの鞄や小物を製作しています。
横須賀市平作の高台にある、自然に囲まれた静かなアトリエ。小道を上がった先にある白い箱型の建物の中では、虫や鳥たちの歌を聴きながら、「M.シダータ」の革職人・三堀唯史さん(愛称、以下シダータさん)がオリジナルの鞄や小物を製作しています。
「どこにもないものを、自分の手でつくりたい」
幼い頃からものづくりや絵に注いでいた情熱は、いまも変わらずシダータさんの作品づくりの根底にあるようです。
シダータさんが鞄づくりを始めたのは、30年も前のこと。愛用していた鞄が壊れたことをきっかけに、革を購入して自ら手を動かして最初のドクターバッグ「風雅」を製作したそうです。
「鞄づくりは独学です。皮革の知識や扱い方は、当時知り合った先輩に教えていただきました。最初の作品をきっかけに、絵描きさんや音楽家の友人から注文が入るようになって、いつのまにか革職人の人生がスタートしました」
型紙を作り、革を選び、金具を合わせる。ひと針ごとに時間を刻む手縫いの鞄の作業は3〜4日かかります。ドクターバッグに使用するのは、マズール社製(ベルギー)のルガトショルダー(渋革)で、牛の首元のしわを活かしたトラ目模様が特徴です。植物タンニンで丁寧になめされた革は、透明感と奥行きをもって語りかけてきます。
シンプルなものを好み、機能に準じたデザインを取り入れながらも、ステッチの1本でさえも装飾を足すことには慎重なシダータさん。その根底には、先人たちの言葉への共鳴がありました。
「ダ・ヴィンチは『シンプルさは究極の洗練である』と言い、ドイツ人建築家のルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエは建築標語に『少ないことはより豊かなことである』と掲げています。複雑さよりも削ぎ落した中に、本当に必要な形が見えてくるのだと思います」
シダータさんのデザインのアイディアは、日常のふとした瞬間にふってくるそうです。外を眺めているとき、歩きながら――。そんな自然な流れの中で湧き出すアイデアは、唯一無二の形になっていきます。
ときには、畳んで立てかけていた傘を見て、その“たわみ”からバッグの形を見出すことも。そうして生まれた「フラワーバッグ」は、偶然と観察からの贈りものでした。バッグはファスナーを閉じれば、マルチポケットのバッグに、開いて広げればピクニックに最適な敷物になります。まさにアイディアから生まれた唯一無二の鞄です。
「命あるものからいただいた皮革を使わせてもらう以上、お客さまに鞄を永く使ってもらいたい。これからも洗練された、どこにもないシンプルな鞄をつくっていきたいですね」
人の手の中で、静かに語りかけるような美しさと存在感をもつ「M.シダータ」の鞄を、ぜひお手に取ってみませんか。独学で積み重ねてきた技術と、手間を惜しまない心。そのすべてが、鞄一つひとつに静かに息づいています。
取材日 2025/07/24
※掲載されている商品、価格、情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
Information
M.シダータのアトリエ
住所 神奈川県横須賀市平作6丁目14−17
電話番号 046-852-5768
営業時間 10:00~19:00
定休日 不定休
アクセス JR横須賀線「衣笠」徒歩17分
URL https://www.instagram.com/sidirta
Writer小林有希
東京在住フリーライター/Web編集。2016年にアパレル企画兼バイヤーを辞めて、ライターに。 紙、WEB問わず企業PR、ファッション、アート、地域、建築、教育、働き方など多分野で執筆中。
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