横須賀市浦賀にある老舗和菓子屋「精栄軒」では、「おりょうと竜馬の愛したかすていら」(240円・税込)が人気商品の一つ。
江戸時代には貿易港として栄え、どこよりも西洋の文化が早く伝わった浦賀には、新しいものに挑戦する気質があるのだとか。その風土から四代目である水谷さんも、お店を引き継ぐ際に先代から「自由に変化していい」と言われたそうです。
そこで歴史好きの水谷さんが挑戦したのは、坂本竜馬が率いる海援隊の雑記録『雄魂姓名録』に記されたカステラの再現でした。
浦賀は坂本竜馬の妻・おりょうが余生を過ごした街でもあります。カステラは竜馬の大好物で、新婚旅行で九州の霧島山を登った際にお弁当の代わりにカステラを持参したほど。
そこで水谷さんは、民間の竜馬研究家の方に協力してもらい、おりょうにとって思い出の味である“竜馬のカステラ”の再現に挑んだのです。
「しかし、竜馬が残したレシピにはうどん粉、砂糖、卵の三つの原材料と量、そして“これを合わせて焼くなり”としか書かれていませんでした。その通りつくってみたら、カチカチの硬さで……頭を抱えました」
先代から教わった精栄軒のカステラのレシピを捨てる覚悟で挑戦した手前、引き返せない水谷さん。試行錯誤の末、精製技術のない幕末当時の素材に近しいだろう、全粒粉のような小麦粉と黒糖にたどり着きました。
「黒糖のおかげでもっちりとした仕上がりになりました。配合や作り方はシンプルな分、じっくり、長く焼きあげています」
かすていらはふんわり、もっちり食感で、黒糖の深くも上品な味わい。初めてなのにどこか懐かしく感じられます。竜馬とおりょうが生きて、これを食べていたら……なんて思わず想像してしまいます。
こうして生まれた「おりょうと竜馬の愛したかすていら」は、平成26年に全国観光土産品連盟によって、全国的に優秀な観光土産品として認定され、精栄軒の歴史に名を刻む銘菓となりました。
「父は自由にしていいと言っていたものの、定番商品だったカステラをなくすとは思わなかったようで、『元に戻せ』と言っていましたが、ようやく喜んでくれました。ここで賞をもらえなかったら、元に戻していたかもしれません(笑)」
今後どのような挑戦をしたいか、水谷さんに尋ねました。
「おいしい、安全、さらに安心して食べられる、体に良いものをつくりたいと考えています。ミネラルやビタミンを豊富に含む黒糖は、まさにうってつけの素材ですね」
今後水谷さんの手によって生まれる、新たな浦賀の味わいに乞うご期待です!
取材日 2025/1/17
※掲載されている商品、価格、情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
Information
精栄軒
住所 〒239-0824 神奈川県横須賀市西浦賀1-6-16
電話番号 046-841-0123
営業時間 10:00~16:00
定休日 月・木曜
アクセス 浦賀丘バス停より徒歩9分
URL https://www.facebook.com/seieiken/?locale=ja_JP
Writer小林有希
東京在住フリーライター/Web編集。2016年にアパレル企画兼バイヤーを辞めて、ライターに。 紙、WEB問わず企業PR、ファッション、アート、地域、建築、教育、働き方など多分野で執筆中。
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